大阪地方裁判所 平成11年(ワ)3727号 判決 2000年10月24日
原告
株式会社島商会
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
塩路広海
同
奥田聡子
被告
株式会社青葉堂印刷
右代表者代表取締役
【B】
右訴訟代理人弁護士
五十嵐幸弘
主文
一 被告は、原告に対し、金七一九万九八九〇円及びこれに対する平成一一年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一〇四七万二〇五〇円及びこれに対する平成一一年四月二四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 基礎となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。なお、以下、書証の掲記は甲1などと略称し、枝番号のすべてを含む場合はその記載を省略する。)
1 当事者
原告及び被告は、各種カレンダーの印刷・製造・販売等を業とする株式会社である。
2 原告商品の販売
原告は、従来から、「SUPER COLOR JUMBO(スーパーカラージャンボ)」という商品名のカレンダー(以下「原告商品」という。)を製造、販売し、一九九九年版については、平成一〇年二月頃から同年一二月頃にかけて、別紙原告商品目録記載のもの(以下「九九年版原告商品」という。なお、一九九七年版の原告商品を「九七年版原告商品」、一九九八年版の原告商品を「九八年版原告商品」という。)を販売した。
3 被告商品の販売
被告は、従前は原告商品を購入、販売していたが、平成八年には一九九七年版の「SUPER COLOR JUMBO(スーパーカラージャンボ)」という商品名のカレンダー(以下「九七年版被告商品」という。)を、平成九年には一九九八年版の同商品名のカレンダー(以下「九八年版被告商品」という。)を製造、販売した。
また被告は、平成一〇年に、別紙被告商品目録記載の一九九九年版の同商品名のカレンダー(以下「九九年版被告商品」という。)を販売した。
二 原告の請求
九九年版被告商品は同年版原告商品の、九八年版被告商品は同年版原告商品の、九七年版被告商品は同年版原告商品の各形態をそれぞれ模倣したものであるから、被告が右各年版の被告商品を販売する行為は、不正競争防止法二条一項三号に定める不正競争行為に該当する。したがって、原告は、被告に対し、同法四条に基づき右各年版の被告商品の販売により原告が被った損害の賠償を請求する。
なお、原告は、当初は九九年版被告商品の販売等の差止め及び廃棄をも請求していたが、これについては右請求に係る訴えを取り下げた。
三 争点
1 九七ないし九九年版原告商品の形態は、同種の商品が通常有する形態か。
2 九七ないし九九年版原告商品の形態は、最初に販売された日から三年を経過したものか。
3 九七ないし九九年版被告商品の形態は、九七ないし九九年版原告商品の形態を模倣したものか。
4 原告の損害額
第三争点に関する当事者の主張
一 争点1(通常有する形態)について
【被告の主張】
カレンダーというものは、そもそもその構成、文字の配置、内容等は決まっており、その形態において作成者の独自性はない。原告商品の形態も、先行する他社のカレンダー(例として乙20ないし26)の形態を模倣して作成したものであり、ありふれた形態にすぎない。
【原告の主張】
カレンダーは、各メーカーがそれぞれ知恵をしぼったそれぞれのオリジナリティを有しているものが多く、とりわけ、本件の原告商品は、原告の作成したオリジナルカレンダーにほかならない。
二 争点2(三年経過)について
【被告の主張】
原告商品は、少なくとも昭和六三年から販売されているところ(乙1、2、6ないし15)、そのデザイン、書体、色合い及び構成は各年版で同一であり、表紙のみが多少変化しているにすぎない。カレンダーは、表紙よりも月毎の内容が重要なのであるから、商品形態の模倣の有無も一体として考えられるべきである。
確かにカレンダーの曜日等は毎年異なるが、カレンダー業者は毎年全国カレンダー出版共同組合から配布されるサンプル(乙17。そこには六曜、十二支、三隣亡、二四節気、行事、旧暦などが記載されている。)を自動的に写すにすぎない。
したがって、九七ないし九九年版原告商品の形態は、最初に販売された日から三年以上を経過したものである。
【原告の主張】
カレンダーは、毎年曜日などが異なるため、毎年メーカー(原告)が時間と費用をかけてそれぞれ毎年異なる日付や曜日、祝日などを記載し厳密な校正の上毎年新たに製作するものであり、それゆえ毎年異なる内容となっている。そればかりか、それぞれ毎年異なる六曜、十二支、三隣亡、二四節気、行事、旧暦などを、原告において時間と労力、費用をかけて調査の上、厳密な校正を繰り返し、毎年独自に前年とは異なったカレンダーを作っているのである。
また、九七ないし九九年版原告商品は、それ以前の原告商品と見比べても明らかなように、年によってデザイン、色合いを全く変えており、一見して異なるカレンダーとなっていることが明らかである。カレンダーにおいては、その色合いが重大な要素であるが、原告においては、年によってそのデザインはもとより、毎年その表紙の色合いを全く異なる色に変えており、そのほかにも少しずつマイナーチェンジをした上で毎年新たに異なったカレンダーを製造・販売している
よって、カレンダーにおいては、同一の商品が引き続き三年以上売られているということは全く当てはまらない。
仮に万が一、このように同じタイトルのカレンダーを三年以上前から作っていたとの理由のみで、不正競争防止法第二条一項三号による商品形態保護期間である三年に当たるとして同法の保護を受けられないとすれば、他のカレンダー会社が三年以上前から製造・販売しているシリーズあるいはタイトルのカレンダーであれば、その年の当該シリーズ、当該タイトルのカレンダーを完全にデッドコピーして販売しても、同法によって全く規制されないこととなってしまい、誰も自らの手間と費用をかけて新しいカレンダーを作らなくなり、カレンダー業界が成り立たなくなることは明らかである。かかる悪質極まりない商法を不正競争行為として規制できないとすれば、不正競争防止法第二条一項三号の趣旨は全く没却されてしまうのである。
三 争点3(模倣)について
【原告の主張】
1 九九年版原告商品と九九年版被告商品を比較すると、表紙の原告会社マーク及び商品番号(表紙の右下のIC―500のマーク)、さらに原告の加盟する全国カレンダー出版協同組合連合会の商標マーク登録(表紙右上の「ZENKYO、JCAL」のマーク)、タイトル、表紙の文章、文字、色合い、配色、デザイン、レイアウト、字体、具体的配置、具体的内容等のすべての点において同一であり、異なるのは表紙の裏のメモ欄の態様のみである。
したがって、九九年版被告商品の形態は、九九年版原告商品の形態をデッドコピーしたものである。
2 九七年及び九八年版被告商品も、九九年版と同様、各同年版原告商品の形態を模倣したものである。
【被告の主張】
1 九九年版被告商品の形態が九九年版原告商品の形態と実質的に同一である点は認める。
ただし、被告は、九九年版被告商品を自ら製版して作成したものであり、①枠等が若干合わない、②表紙裏のメモ欄の形態には相違がある、③九九年版被告商品の一一月及び一二月の頁の右上には、「新祝日法により成人の日(15日)が10日に移動になる場合があります。」との記載がある、との点で九九年版原告商品とは異なっているから、九九年版被告商品は九九年版原告商品を単純にデッドコピーしたものではない。
2 九七年及び九八年版被告商品の形態が、同年版原告商品の形態と実質的に同一である点については否認する。被告では、右被告商品を現存していないので、形態の確認ができない。
四 争点4(損害)について
【原告の主張】
1 売上げについて
九九年版被告商品の売上数は一万九一〇〇冊であり、売上高は五〇二万五三〇〇円である。
九八年版被告商品の売上数は一万三八四〇冊であり、売上高は四〇四万六九二〇円である。
九七年版被告商品の売上数は一万五六三四冊であり、売上高は四七二万一二五〇円である。
2 費用額について
被告商品の製造、販売に要した費用は、原告商品のそれをもって推定すべきところ、原告商品の製造原価は次のとおりである(詳細は別紙「製造原価計算表」の「原告の主張」欄記載のとおり)。
九九年版原告商品については一冊当たり約一〇〇円
九八年版原告商品については一冊当たり約一〇二円
九七年版原告商品については一冊当たり約一一〇円
3 被告の得た利益額について
したがって、九七ないし九九年版被告商品の販売によって被告の得た利益は次のとおり(右の売上額と製造原価の差)であり、それらの合計八七五万二〇五〇円が原告の損害の額と推定される。
九九年版被告商品については、三一一万五三〇〇円(5,025,300-19,100×100)。
九八年版被告商品については、二六三万五二四〇円(4,046,920-13,840×102)。
九七年版被告商品については、三〇〇万一五一〇円(4,721,250-15,634×110)。
4 弁護士費用
本件での被告による不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士費用額としては、一七二万円を下らない。
5 まとめ
したがって、原告が被告に対して請求し得る損害額は、一〇四七万二〇五〇円である。
【被告の主張】
1 原告主張の損害額は争う。
2 被告は、被告商品だけを製造、販売しているわけではないので、被告商品のみの経費額(製造原価)を算出することは不可能である。ただ、あえて被告の側で被告商品の製造原価を明らかにすると、別紙「製造原価計算表」の「被告の主張」欄記載のとおりである。
原告は、原告商品の製造原価をもって被告商品の製造原価を推定すると主張するが、原告主張の製造原価が信用できないのみならず、右の推定を行うこと自体に無理がある。
3 被告は、名入れ販売を行っているのに対し、原告はそうではないから、両者の製造原価を同視することはできない。
4 被告は、従前から原告商品を販売してきたが、平成五年以降はその顧客数はほぼ安定している。九七年以降の被告商品の販売先も、被告の従前からの東北地方一円の顧客に限られている。したがって、原告の新商品開発者としての利益は何ら害されていない。
5 仮に原告の主張を前提としても、原告は、従前、原告商品を単価一八〇円で被告に販売し、被告はそれを購入の上、販売していた。したがって、本件で原告に生じた損害は、(一八〇円ー原告の製造原価)×冊数 になるはずである。
第四争点に対する当裁判所の判断
一 争点1(通常有する形態)について
甲1によれば、九九年版原告商品の形態は、別紙原告商品目録記載のとおりであると認められ、また、乙13及び14によれば、九七年及び九八年原告商品の形態は、表紙が九七年版では青緑色、九八年版では黄緑色であること(九九年版は橙色)、各月の頁の記載が年毎の曜日等の変更によって変わっていることを除いて、九九年版原告商品と同一であると認められる。
ところで、カレンダーという商品においては、その性質上、一月から一二月までの各月の暦に表紙を付した形態を採るのが一般的であるといえる。しかし、その条件の下で、各月の暦の記載方法やデザイン、表紙のデザイン等、各カレンダーごとに個別の特徴が存するのであるから、原告商品の形態が「同種の商品が通常有する形態」であるといえるためには、それらの点を含めてもなお「通常有する形態」であるといえるか否かを検討する必要があるというべきである。
そして、九七年ないし九九年版原告商品の各月の頁については、各日欄を四角で囲み、上部に先二月分及び後二月分の暦を配列し、各日に六曜や十二支等を記載するデザインに格別特徴があるとはいえない。また、各月の配色が黒と赤、黒と緑、黒と青の入れ替わりからなる点についても、被告が類例として提出する乙20には同種のものが存するから、格別特徴があるとまではいえない。
しかし、九七年ないし九九年版原告商品の表紙については、被告が類例として提出する乙20ないし26のほか一般的に見てもありふれたものということはできない。
また、九七年ないし九九年版原告商品は、商品名に「スーパー…ジャンボ」とあるとおり、縦七六〇㎜×横五一五㎜という寸法(B2版)からなり、このような大きさの点においてもありふれた形態であるとはいえない。
以上からすると、九七年ないし九九年版原告商品の形態は、全体として「通常有する形態」からなるとはいえない。
二 争点2(三年経過)について
1 乙1、2、6ないし15によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、遅くとも一九八八年版から、原告商品を製造、販売している
(なお、以下、カレンダーの年表示については下二桁で表示する。)
(二) 各年版の表紙部分の推移は次のとおりである。
(1) 八八年版から八九年版までは、別紙表紙目録記載1のデザインの表紙であり、各年ではその配色が異なっている。
(2) 九〇年版から九二年版までは、別紙表紙目録記載2のデザインの表紙であり、各年ではその配色が異なっている。
(3) 九三年版は、別紙表紙目録記載3のデザインの表紙である。
(4) 九四年版から九六年版までは、別紙表紙目録記載4のデザインの表紙であり、各年ではその配色が異なっている。
(5) 九七年版から九九年版までは、別紙表紙目録記載5のデザインの表紙であり、各年ではその配色が異なっている。
(三) 各年版の各月の頁部分の形態は、基本的に同一である。ただし、毎年、曜日、六曜、干支、三隣亡、二四節気、行事、旧暦の日が変わることから、それに対応した記載の変更がある。
(四) 各年版の寸法は若干の変動はあるが、ほぼ同一である。
2 以上を前提に判断する。
一般に、暦の内容は毎年変わる以上、それに応じてカレンダーの各月の頁の記載内容が毎年異なるものとなることは明らかである。しかし、そのような内容は、毎年の暦の内容に応じて自動的に決まってくるものであるから、暦の記載内容に変更がなされているということをもって、毎年カレンダーの商品形態が変更されているということはできない。したがって、原告商品の各月の頁部分の形態は、八八年版以来実質的に同一であると認められる。
しかしながら、カレンダーの表紙もカレンダーの商品形態の重要な一部分を形成するものというべきであるところ、前記のとおり、原告商品の表紙のデザインは変更されてきており、現在のデザインになったのは九七年版以降である。そうすると、九七年版原告商品の販売が開始されたのは平成八年二月からであるから、九九年版被告商品が販売された平成一〇年においても、九七ないし九九年版原告商品の形態はいずれも、最初に販売された日から三年を経過したものとはいえない。
三 争点3(模倣)について
1 九九年版被告商品について
九九年版被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であることは当事者間に争いがない。
そして、被告は、九九年版被告商品を自ら製版したと主張しているが、九九年版被告商品の形態は、表紙のデザイン及び色彩並びに原告のマーク及び商品番号(IC-500)の点でも九九年版原告商品と同一であるから、被告は、九九年版原告商品を基に製版をしたものと推認される。
したがって、九九年版被告商品の形態は、九九年版原告商品の形態を模倣したものというべきである。
2 九七年及び九八年版被告商品について
(一) 九七年及び九八年版原告商品の形態は、一において先に認定したとおりである。
他方、九七年及び九八年版被告商品の形態を具体的に認定し得る証拠は提出されていない。
(二) ところで、甲1、2、9、乙3ないし5及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は、遅くとも八八年版から九五年版までの原告商品を原告から購入し、名入れ(カレンダーの下部の余白に客先の商号や住所等を印刷すること)の上、顧客に販売していた。右の購入価格は、当初は一部当たり二〇〇円であったが、後には一八〇円となった。
(2) ところが被告は、平成五年に自らカレンダーを製造する体制を整えたことから、九六年版原告商品を販売するについては、原告から版を合計三〇万円で購入し、自社で印刷した上で顧客に販売した。
(3) さらに被告は、版の購入代金が高額であると判断したことから、九七年版以降は、購入した九六年版原告商品の版(フィルムリース)を基に自社で製版も行い、印刷、製本した上で顧客に販売した。
(4) 被告が九七年ないし九九年版被告商品の売上集計として提出した甲7、8、乙27は、被告がコンピュータで管理している会計記録から被告商品に関するものを抽出集計したものとして提出されたものであるが、そこでは、「品名:1IC0500 スーパーカラージャンボ B2*13 」と記載されている。
(5) 被告は、九七年版及び九八年版被告商品を販売するに当たって、特にカタログを作成していない。
(6) 九九年版原告商品と九九年版被告商品の形態上の相違点としては、①表紙裏面の年間予定表欄の形態、②被告主張の一一月及び一二月欄の祝日法に伴う成人の日の変更可能性の注記の二点のみである。
(三) 以上のような事実からすれば、従前、被告は、原告から原告商品を購入していたのを、九六年版は版を購入して自社で印刷、製本して販売したのであり、その後の九九年版被告商品では、些細な点を除いて九九年版原告商品と同一のものを自社で製版、印刷、製本して販売したのであるから、その間に位置する九七年及び九八年版被告商品においても、九九年版被告商品と同様に各年版原告商品と同一の商品を製造したと推認するのが相当である。また、被告が九七年及び九八年版被告商品も原告商品の同じ商品番号を使用して会計記録を作成していたことから、被告は、当時、原告商品と同じ商品番号で九七年及び九八年版被告商品を販売していたと推認され、自ら固有のカタログを作成しなかったことを併せ考えると、被告は、九七年及び九八年版原告商品と実質的に同一の九七年及び九八年版被告商品を作成して、市場において原告商品と同一の商品番号で原告商品のカタログを使用して販売していたものと推認される。
そうすると、九七年及び九八年版被告商品の形態を具体的に認定し得る証拠は存しないものの、それらの形態は、九七年及び九八年版原告商品の形態と実質的に同一であり、それらを模倣したものであると推認するのが相当である。
四 争点4(損害)について
1 前記認定事実によれば、被告は、前記のとおり不正競争防止法二条一項三号所定の不正競争行為を行うにつき、故意又は少なくとも過失があることが明らかである。そこで、以下、原告が請求し得る損害額について検討する。
2 逸失利益について
(一) 甲7、8及び乙27によれば、九七年ないし九九年版被告商品の売上量及び売上高は、原告主張のとおりであると認められる。
(二) 次に控除すべき費用について検討する。
(1) 被告は、別紙「製造原価計算表」の「被告の主張」欄記載のとおりの製造原価を主張するが、それを裏付ける証拠がないから、採用することはできない。被告は、被告においては本件の被告商品以外のカレンダーも製造しているから、本件の被告商品のみの製造原価を算定することは不可能であると主張するが、原告が提出したような各商品を製造するに当たっての各帳票類を用いて製造原価を算定することは十分に可能であるというべきであるから、被告の主張は採用できない。
(2) そして、他に被告の製造原価を具体的に明らかにし得る証拠は存しないが、本件では、原告商品の製造原価に関する証拠によって、被告商品についての製造原価を推認するのが相当である。
ア 甲4ないし6、10ないし13によれば、原告が九七年ないし九九年版原告商品を製造するのに要した製造原価及び販売部数は、別紙「製造原価計算表」の「原告の主張」欄記載のとおりであると認められる。
イ 右の原告商品の製造原価の費目中には、被告主張の費目のうち、ケース代、金具代、名入代及び送料の記載がない。
しかし、まず、ケース代及び金具代については、弁論の全趣旨によれば、原告においては、これらの費用を製本代に含めて計上していると認められる。
次に、名入代については、原告においては名入れを行う場合もあれば行わない場合もある(甲16ないし20、23ないし37)ことから製造原価の費目には計上されていないが、被告においては名入れをした上で販売しており、常に製造原価として発生するものであるから、被告商品の製造原価を推認する際には製造原価費目に含めるべきである。そして、甲38及び弁論の全趣旨によれば、原告において名入れを行う場合には一冊当たり一一・七円(一三枚×〇・九円)であると認められる。
さらに送料については、これを要することは明らかであるものの、これを認めるに足りる的確な証拠がないから、被告主張の一冊当たり一〇円とするのが相当である。
ウ 原告主張の一冊当たりの製造原価は、右認定に係る製造原価合計を原告が販売した部数で除したものである。
しかし、九七年ないし九九年版の原告商品と被告商品とでは販売した部数が異なるから、部数の大小に関係なく一定の費用を要する費目については、製造原価合計を、被告が販売した部数で除するのが、被告が要した一冊当たり製造原価を推認するには適切である。
そこで、各費目について検討すると、弁論の全趣旨によれば、①用紙代、印刷代、断裁代、製本代、名入代及び運賃代は部数に比例して発生するものであること、②製版代及び版下代については部数に関係なく発生する費用であること、③刷版代については、約四万ないし五万部ごとに新版が必要となり、原告商品では、九九年版は三回、九八年版は四回、九七年版は三回の刷版を行ったことが認められる。
したがって、原告商品の製造原価から、被告商品の一冊当たりの製造原価を推定するに当たっては、右①の費目については原告商品の各製造原価を原告商品の販売部数で除してよいが、右②については原告商品の各製造原価合計を被告商品の販売部数で除する必要があり、右③については、九七年ないし九九年版被告商品の販売部数はいずれも一万部台であるから、原告商品の各年の一回分の刷版代(甲5、11、13によれば六万七五〇〇円)のみを計上すべきである。
エ 以上をまとめると、被告商品の一冊当たりの原価は、別紙「製造原価計算表」の「裁判所の認定」欄記載のとおりとなる。そして、これより他に控除すべきであるとして主張されている費用はないから、被告の利益額は、売上額から右製造原価を控除することによって算定するのが相当である。
右によれば、一冊当たりの経費は、九九年版が一四〇・八円、九八年版が一五四・二円、九七年版が一五八・〇円であるから、各年版の利益の額は、次のとおりである。
九九年版は二三三万六〇二〇円(5,025,300-19,100×140.8)
九八年版は一九一万二七九二円(4,046,920-13,840×154.2)
九七年版は二二五万一〇七八円(4,721,250-15,634×158.0)
したがって、被告の得た利益の額は合計六四九万九八九〇円であり、これが原告の受けた損害の額と推定される。
(三) 被告は、被告商品の販売先は、いずれも被告が従前から原告商品を販売していた東北一円の顧客であると主張する。しかし、そのことを認めるに足りる証拠はないし、甲16ないし20、23ないし37によれば、原告はほぼ日本全国にわたる顧客に原告商品を販売しており、その中には東北地方の顧客も含まれていることが認められるから、被告の販売先が東北地方であることから、原告がそれらの顧客に販売する機会がなかったとはいえない。
また被告は、被告は名入れ販売をしているのに対し、原告は名入れ販売をしていないと主張するが、原告も名入れ販売を行っていることは先に認定したとおりである。
さらに被告は、原告は、従前、原告商品を単価一八〇円で被告に販売し、被告はそれを購入の上、販売していたから、本件で原告に生じた損害は、(一八〇円ー原告の製造原価)×冊数 になるはずであると主張する。しかし、先に認定したとおり、被告は従前のように原告から原告商品や版を購入していたのでは採算が合わないから自社生産に踏み切ったというのであるから、被告が被告商品を製造、販売していなければ原告商品を購入していたと仮定するのは現実味を欠くというべきであり、そのような事情を基に損害額を算定することはできないというべきである。
3 弁護士費用について
本件の一切の事情を考慮すれば、被告の不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当損害金としては、七〇万円と認めるのが相当である。
4 まとめ
以上より、本件で原告が被告に対して請求し得る損害金は、合計七一九万九八九〇円及び不正競争行為が行われた後である平成一一年四月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金となる。
第五結論
以上によれば、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)
<以下省略>